日没サスペンデッド
歌詞
前略
「元気かい」「どうしてる」「変わりはないかい」
とか迷ったけど好きなのを選んでほしい
インクが切れるまで言葉も飾らずに
宛名も知らない手紙を書いてみてるよ
もう、あれから何年経ったろう?
こう眠れない夜はよく懐かしむんだ
僕のほうは今も元気で、いるけれど
近頃はどうも、ぼんやりしていけない
お前が消えたわけだってわかっていたのに
コルクボードの写真みたく色褪せ、悶えて
けどいいさ、最後なんていつだって
同じだ、大した意味なんてないだろう?
なあ、ここに小さなスクラップがある
6月の7日果たして見ただろうか
メリーランド沖22マイルの海底に
リタイアしたアムトラックが沈められたらしい
その数はいまじゃ優に千を超え
磯となって魚を護り巨大な街を作ってる
ねぇ信じられるかい?
光がまったく差さない都があるんだ
なあ、お前はきっと笑うだろう
なんだかひどく年をとった気分だよ
はて今は二千何年だろうって
可笑しいだろ?たまに考えているんだ
回転木馬のように世界が回ってる
僕はひとりエアポケットに入った気分さ
ソクーロフの古い映画にあるロシアを覚えてる?
あんな終末的な世界さ
なあ、お前はきっと笑うだろう
積み上げた古い未来をせっせと
燃やしては新しい過去をつくってるんだ
ここじゃあそんな風にして生きるのさ
将棋崩しみたくひとつづく削いでいく
その連続はもしかするとひどく寂しいが
だからみんな気ぜわしく歩くんだろうって
嫌いっていう言葉が幼くて嫌いなんだ
なぁ、お前はきっと笑うだろう
僕たちの幸せは空しいくらい容易いよ
不完全でいることを恐れるから
すすんで自分を犯人にしてしまうのさ
どうしてだろう とってもみすぼらしいよ
見るものすべてが死んだみたく冷たくて
だけど欲張って他人の人生まで生きるなんて
そんな愚かなことはないだろ?
あのときも確か季節は秋で
ヨークシャーの小さな港街にいたんだ
ひなびてて廃れてて凍結したようで
まるで世界の最果てにいる心地がして
お前に手を引かれアビーに向ってった
小高い丘の上のベンチを腰掛けた
そこからは町が一望できて
暮れなずむ夕日が僕たちを待っていて
湾になった港を囲むように
切り絵のような稜線が幾重にも重なり合い
藍色からアイボリーに空はそまって
時間は時間のように流れていって
見上げればたくさんのカモメたちが
賑やかにいつまでも孤を描いていた
太陽の周りに寝そべる淡い雲は
身を焦がしながらもゆっくり近づいてった
赤レンガの煙突に光は影を落とし
浜辺に寄せる細波にも影を落とし
岬の灯台にも横付けた小舟にも
街灯にも屑カゴにも薄一本にも
照らされて陰を生むものたちが見せる、
何ひとつ疑問のない当たり前な美しさが
少しばかりそれが眩しすぎて
目を反らさないように必死だったんだ
刻々と溶けていく落陽のその奥で人生は
こっちを確かに覗いていた
エンドロールのような真っ白い煙は
物語の終焉をこの僕に告げていた
もう一度あの丘のベンチに戻ってみたいんだ
海底に潜ってった太陽にかわって
クリーグライトで薄暗い街を
いま一度真っ赤に照らしてみせるのさ
お前はいまでもあそこに座って
ぼくを待っている、そう思うよ
P.S.
小鳥が鳴いている、ポストには朝刊、
いまにも電車は動き出すだろう